独自アンケート 結果と考察
このアンケートは、NPO法人キーデザインが運営する、無料のLINE相談窓口「お母さんのほけんしつ」にて収集したものです。
概要
期間
2021年5月7日~13日(7日間)
対象者
不登校の子どもを持つ保護者で、お母さんのほけんしつ登録者約400名。うち138名から回答あり。
目的
不登校に悩む子ども、またそのご家族がどのような課題を抱えており、それに対して私たちがどういった支援をすべきなのか、検討するため。
その他回答者基本事項
回答者の性別
男性2.2% 女性97.8%
回答者の年代
40代66.7% 50代18.1% 30代15.2%
子どもの性別
男性52.9% 女性47.1%
回答者の住まい
栃木県52.2% 県外46.4% 回答しない1.4%
結果 概略
①「シングル世帯」「経済的困窮」という環境が、不登校の1つの要因になりうる
生活困窮と子どもの問題行動・不登校への関連性は以前より議論されていた。今回のアンケートでは、回答者の16.7%が「シングルマザー・シングルファザーである」と回答しており、全国のデータに比べ、15.12ポイント高いことが分かる。
②学校という環境と子どもの個性とのミスマッチが不登校を生む
不登校と聞くと、一般的に「いじめ」がその要因としてよく話題にあがるが、保護者の回答によると、1位「学校のルール・雰囲気が合わない」、2位「本人の56.5%、発達障がいや特性」47.8%、という回答となった。
③不登校になることで、家族以外との関係性が希薄化する
不登校は、あくまで「学校とのつながり」を意識させる言葉であるが、実際には「家族・親戚以外の人との関わりはありますか?」という問いに対し、「ほとんどない」「月1~3回程度」を合わせて49.3%となっており、約半数がほとんど家族以外との関係性が断たれていることが分かる。
④子どもの不登校で、親も社会とのつながりを失い、孤立する
子どもが不登校になってから、早退・遅刻・欠勤が多くなる、休職・退職するなど、61%もの保護者に何らかの影響を与えていることがわかった。
⑤「親の不安」1位勉強、2位進学・就学。子どものニーズと親のニーズに大きな乖離
「お子さんのことで不安に感じているもの」を選択してもらったところ、1位「勉強」77.5%、2位「進学や就職」といった回答が多くあった。
①「シングル世帯」「経済的困窮」という環境が、不登校の1つの要因になりうる
生活困窮と子どもの問題行動・不登校への関連性は以前より議論を呼んでいた。今回のアンケートでは、回答者の16.7%が「シングルマザー・シングルファザーである」と回答している。全国の一般世帯5,300万世帯に対し、シングル家庭は83,4万世帯と1.58%となっている(2015年国勢調査)。今回のアンケートはこのデータと比較し、15.12ポイント高いことが分かる。
またシングル家庭と、そうでない家庭の収入を比べたところ、下記のようになった。
円グラフの黄色部分が「~199万円」の回答である。シングル家庭は52.2%、両親あり家庭は1.7%となっており、その差は歴然である。こうしたことの影響で、フリースクールなど家庭に負担のかかる形の支援を受けることが難しくなっている。文科省より発表された「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(2019年度)」によると、教育支援センター、民間フリースクール・相談窓口などの継続性の高い支援を受けている不登校の小中学生は、全体の23.2%にとどまる。特に民間のフリースクールなどは、月謝の相場が3万円前後となるため、15~17万円ほどの月収では到底利用には至らない。
当会でも2021年4月より、こうしたご家庭で一定の条件を満たした場合、フリースクールの利用料を無料にするという支援を開始した。しかし一定期間、収入が少ない状態で生活している家庭の場合、親の意識として民間のフリースクールや相談機関などに対し「料金がかかるだろう」というイメージから、金額や制度の内容を知る前に敬遠する傾向もある。そこに踏み込んでいくためにも、支援者とご家庭の信頼関係の構築は大変重要なものである。
②学校という環境と子どもの個性とのミスマッチが不登校を生む
※選択項目が見づらいため、再度ここに全文を記す。
・いじめなど友人関係(教室)
・いじめなど友人関係(部活動)
・教師と合わない(担任、教科担当など)
・教師と合わない(部活動、クラブ活動など)
・学校のルール、雰囲気が合わない
・勉強についていけない
・本人の発達障がいや特性
・親子、兄弟など家族間での不仲
・家族の中に、高齢・障がいなどで支援を必要とする人がいるため
・経済的な理由
不登校と聞くと、一般的に「いじめ」がその要因としてよく話題にあがるが、保護者の回答によると、1位「学校のルール・雰囲気が合わない」56.5%、2位「本人の発達障がいや特性」47.8%、3位「教師と合わない(担任・教科担当など)」39.1%という回答となった。
これは学校という環境と子どもが合わない、ということを示している。実際私たちも個別に相談を受けているが「授業中の静けさや発表の際に間違えてはいけないというプレッシャーなどから本人が行き渋るようになった」「発達障がいのグレーゾーンで、教室内でその理解がされず、本人が孤立してしまった」などの声がある。
現状学校は1人の先生が子ども30~40名を担当し、個別性を持って子どもに関わることは難しい。授業などもカリキュラム通り進めていくことが重視されており、学習の遅れが出てしまっている児童生徒がいても、対応することができないシステムになっている。また最近であれば、ダンスやプログラミング、コロナ禍でのオンライン授業対応など、一教師が担う業務の幅・量ともに増えており、この学校環境と子どものニーズのズレはどんどん拡大していくものと思われる。
文科省は少人数学級を目指し、今後5年で35人学級にするとしている。私たちもフリースクールで、1日8~12名を、支援員4名前後で見ているが、それでも支援員を増員しないと、子ども達の特性・個性に合わせた支援は難しいと感じることもある。自閉症、ADHD、学習障がい、そのグレーゾーン含め、発達障がいや様々な特性を持つ子ども達が「安心して学び、人とつながる環境」をつくるためには、学校という環境にこだわらず、民間含め別の機関を利用することも選択肢として捉えることは必須である。あくまでこれは、学校が合わない子どもには別の選択肢を用意する、ということで、学校批判とは異なることを明示しておく。
③不登校になることで、家族以外との関係性が希薄化する
不登校は、あくまで「子どもと学校との関わり」を意味する言葉であるが、実際には学校だけでなく、人とのつながりさえ断ってしまうのが不登校の1つの大きな課題である。「家族・親戚以外の人との関わりはありますか?」という問いに対し、「ほとんどない」「月1~3回程度」を合わせると49.3%となっている。回答者の子どもの約半数が家族以外との関係性が希薄化してしまっていることが分かる。
また関係性の希薄化から、人に会うことに対して恐怖心・抵抗を持つ子どもも多くなってくる。例えば「周りにどう思われるか怖くて外出ができない」「同じクラスの子に会いたくない」などから外出しなくなる子どもや、教員や家族、親戚から否定された経験を持つ子どもは、自分を守るために、人と会うことすらしなくなる。実際に、フリースクールを利用しない理由を保護者に聞いたところ、下記のような回答を得た。
料金や経済的な理由を差し置いて、一番多かったのが「本人が外出や人と会うことを不安がっている」54名/113名、である。不登校の期間が長くなればなるほど、外とつながることが難しくなるため、私たち支援者はどれだけ早く子ども達にアクセスできるかを重視した仕組み作り、またそれに付随して、こちらのスピード感に子ども達が追い詰められないよう、バランスをとった支援をする必要がある。
④子どもの不登校で、親も社会とのつながりを失い、孤立する
約2割が「休職・退職した」、約3割の方が「早退・遅刻・欠勤が多くなった」と回答。子どもが不登校になってから、早退・遅刻・欠勤が多くなる、休職・退職するなど、61%もの保護者に何らかの影響を与えていることがわかった。
実際に個別の相談支援をする中でも「子どもを1人で家に置いておくのは心配だから、仕事を休職しようかと思っている」「仕事中も子どものことで頭がいっぱいで辛いので、仕事を辞めようと考えている」という相談も多くある。特に母親の仕事に影響が出ることが多いのだが、結果休職・退職を決断しても、良い方向に向かうケースは稀である。
1つは、母親が孤立してしまうこと。これまでであれば、職場の同僚や上司、部下など人とつながりを持ち、仕事で役目を持って自己の存在を認めてもらえていたのだが、仕事を休む、辞めることにより、人とのつながりも断たれ、誰にも自分の努力や葛藤を認知されないままに、家庭の中で孤立してしまう。
1つは、解決策が見いだせないこと。仕事から離れて、子どもと一緒に過ごす時間を増やしたからといって、すぐに解決の糸口が見つかるわけではない。上で述べたようにこれまでの個としての生活の充実感を失い、かつ精神的に不安定な子どもと一緒にいること、また自分の子どもが学校に行けないことへの不安や心配から、母親も一緒に苦しくなってしまう。
また、夫婦間で子どものことを満足に話ができているか質問したところ、右記にような結果が出た。43%ものご家庭で、夫婦間で連携が取れていないことがわかる。保護者、特に母親の孤立は、不登校の裏側にある、見えない課題の1つである。仕事から離れることで、家計も苦しくなるとともに、保護者の孤立も加速してしまう。
私たち支援者はこうした背景も汲みつつ、保護者の精神面のケアを前提とした、子どもの居場所確保、自立支援にあたらなければならない。
⑤「親の不安」1位勉強、2位進学・就学。子どものニーズと親のニーズに大きな乖離
「お子さんのことで不安に感じているもの」を選択してもらったところ、1位「勉強」77.5%、2位「進学や就職」という回答となった。実際に相談支援をしていても、子どもが将来自立できるか、学校に行かず勉強は大丈夫なのか、といった声はとても多い。
しかし、現実問題
・親子での会話もほとんどなく、1日の9割を自室にこもって生活している
・昼夜逆転しており、ちょっとしたことで癇癪を起こし、暴れまわってしまう
・四六時中ゲームをしていて、ご飯やお風呂に入るなど、生活リズムも崩れてしまっている
・自分を卑下する言動が多く、自傷行為も時々ある
といった状況にある家庭も多い。そうした中でも、進学や勉強といった点に強く不安に抱く保護者も多くいる。
私たち支援者としては、まず心の休息を第一に、生活リズムを整えることや周りとの関わりから自己肯定感を高めていくことが大事だと考えるが、保護者の持つ課題感とのギャップにより、適切な支援を提供することが難しいケースも多い。
フリースクールや相談支援などをする支援者は、こうしたギャップを埋めることを意識しながら支援にあたる必要がある。ただし、左グラフが示すように、保護者が精神的に追い詰められていることも多くあり、かつ保護者と子どものニーズは異なることが多く見られる。例えば、保護者のニーズとしてある「勉強」を軸にフリースクールを運営すると、子どもの利用からは遠ざかってしまう。子どもは「勉強に追い付けるか」でも「将来自立できるのか」でもなく、「今安心して過ごしたい」ということを願っている。その双方のニーズを汲みつつ、子ども本人の将来の自立を考えた選択を、保護者とも丁寧な対話を通して共に考えていく姿勢が大切と考える。
結果と考察
○経済的に困窮する家庭への支援の充実化
今回の回答者の中にも、シングル家庭は1割を超え、世帯年収が199万円以下の家庭も1割近くいた(399万円以下とすると3割)。近年、経済的困窮は金銭面だけでなく、人とのつながり、つまり社会資源とのつながりの希薄化につながっていることが声高に叫ばれるようになってきた。実際に、相談を受けていても
・仕事を失い、収入が激減。食料調達もままならない状況
・ 母親しか働き手がないため、昼も夜も働く必要があり、子どもに目をかけてあげられない
・ 忙しさのため、病院や支援機関に相談する時間すらとれない
・子どものことに悩み、相談相手もおらず、子どもと心中しようと思ったこともある
など、その困窮具合は想像を絶する。
一定の条件を設ける必要はあるが、経済的に困窮する家庭に対しては、減免もしくは無償化という形での支援が必要であると考える。地域によっては、行政が利用料を負担する形で、フリースクール等施設を利用できるところもあるが、それもまだ稀なケースである。私たちの活動する栃木県も2021年夏に満額1万円の補助を家庭に出す(条件あり)ことも決めたが、フリースクールの相場は月額3万円前後であるため、まだ満足な補助とは言えない。 私たちの法人では、寄付等を利用することで、現在も一定の条件を満たした家庭に関しては、無償で利用できる制度を設けている。民間の組織としては、行政に頼らない形での地域のサポートを得て、こうした家庭への支援をする必要があるのが現状である。
○子育てに伴走し、専門家とつなぐコーディネーターの存在が必要
子ども達は外に出ること、人とつながることに抵抗を示し、保護者は仕事を辞め孤立していたり、ストレスによりうつ状態になっていたりといった状況にある家庭も多い。令和になっても「不登校=怠け、落ちこぼれ」といったイメージも強く、その保護者は、周りの目を気にして、困ってもすぐに第三者に相談することが難しくなっている。
・知人に相談したが「大丈夫だよ」と言われ、私にしかこの辛さはわからないのだと感じ、相談することを諦めた
・支援機関に相談した際に「親の責任」と責められ、私だけでなんとかしなければと、思うようになった
といった声も聞かれる。
まずは、子どもの代わりにSOSを発信する保護者が「相談しよう」と思える、支援(社会)の入口が必須である。専門家としては、学校、病院など様々あるが、そうした職種にある場合、制度等のしばりがあり動きに制限が出るため、それぞれの家庭に合わせた柔軟な対応のできる存在が大切である。そうした立場にある人が、下記1~3の寄り添いを保護者に対して実践する。
1.保護者の声を聴き、心のケアをする(信頼関係の構築)
2.子どもの周辺環境、不登校の背景についてヒアリングする(情報収集)
3.必要な支援・専門家へつなぐ(選択肢の提示)
1~3は一度で完了するものではなく、場合によっては、数週間単位でサイクルを回すこともあれば、一度相談に乗り完了した後、半年、一年経ってから再開するようなこともある。学校ありきではなく、学校以外の支援や学びの場につなげることを前提にすると、その子どもの年齢や家族の状況によって、選択肢は変えることが必要になり、まさに子育ての伴走という形となる。専門家と保護者の間に入り、その中で保護者の心に寄り添いながら、状況に合わせて、支援策を検討するコーディネーターが必要である。私達はその役目を担う意味でも、無料LINE相談窓口「お母さんのほけんしつ」を運営する。
私たちは、お母さんのほけんしつを通して、子育てする親御さんを孤立させない、一人ひとりの子育てを地域で支えていける社会をつくっていきたいと考えています。2021年10月1日より、クラウドファンディングをスタートしました。お母さんのほけんしつの運営資金を集めるためのものです。今回のアンケート調査も、多くの方の寄付により実行することができました。よろしければ、ぜひご支援いただけますと幸いです。